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宮崎地方裁判所延岡支部 事件番号不詳 判決

右の者等に対する暴力行為等処罰に関する法律並びに傷害被告事件につき当裁判所は検事中倉貞重関与の上審理を遂げ左のとおり判決する。

主文

被告人三名いづれも罰金五百円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五円を一日に換算した期間当該被告人を各労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人等の連帶負担とする。

理由

被告人等は延岡市にある旭化成工業株式会社(以下会社と略称する)の労務者を以て組織する旭化成延岡工場労働組合(以下延労と略称する)レーヨン支部に所属していた労務者であるが昭和二十三年九月十八日延労と会社との間に賃金の値上げその他の問題に関し意見の相違を来し協議整わず遂に争議状態に突入し爾来双方ともあらゆる手段方法を尽して争議行為を継続していた折柄延労組合員中争議を非とするものが該組合から脱退して所謂第二組合を結成したので被告人等もこれに同調し同組合に加入することとなつた然るにその後第二組合では会社に対し団体交渉を申し入れ会社の業務に服することとなつたので延労(以下第一組合と仮称する)ではあくまでも素志を貫徹せんがためその妨害となる第二組合員の就業を阻止するの方途を策し各支部に対し同年十月十日正午を期し四十八時間一齊「ストライキ」に突入する旨の指令を発し專らレーヨン工場に主力を注ぎ同日午後三時の勤務交替時から同工場各通用門に多数の第一組合員で互に「スクラム」を組み第二組合員の入場を阻止し会社の生産を阻害し極力会社に対抗するの挙に出で翌十一日午前七時の勤務交替時においても第一組合たる新増畩雄外男女七十名位が同工場通車門で後方に女子五十名位前方に男子二十名位を配置し横列六重の「スクラム」を組み第二組合員の入場を阻止するの態形を整え愈々結束を固め待機した茲において被告人等は同日午前七時三十分頃就業の目的で第二組合員田〓松治外百名位と共に同所に到り右第一組合員等の妨害を排除し同所から同工場に入場せんとし強力に身を以て右「スクラム」線に突入したが恰もそのとき同所の鉄扉が守衞により内部から開扉されたので機を逸せず更に強烈に第一組合員を押し除け押し倒し門内に入場し以て多衆の威力を藉り且つ共同して右第一組合員等に暴行を加え、因つて第一組合員たる中村チエ子外二十二名に対し全治二箇月半乃至二日を要する両下腿部骨折その他身体各部の筋肉断裂、挫傷、擦過傷、打撲傷、皮下溢血等の傷害を与えたものである。

右事実は被告人等の当公廷における判示暴行傷害の点を除く爾余の略判示同旨の自供、証人淸成芳憲の供述として第一、第二組合員が判示日時に判示のような経緯から判示場所で約十分位互に押合をしていたが第二組合員の方が勝つたのか第一組合員の後方の者が「スクラム」を組んだ儘倒れ怪我人をだした旨の記載及び検事の田〓松治、新増畩雄波岡十四秋、小村光義、高岡一男、菊池英夫に対する各聴取書、検察事務官の佐藤政子、德田ナミ、安藤とし子、本村つぐめ、中村勇吉に対する各聴取書、司法警察官の園田シズ、牧野アサ子、若林淸子、浜場京子、矢野敏子、加藤フジ子、甲斐タミ、丸目允子、太田春一、山下キクエ、満富那智子、赤井田トミエ、松田ヨシ子、戸高時子、高瀨みちえ、甲斐のぞみに対する各聴取書、医師山本淸の中村チエ子、園田シズ、牧野アサ子、佐藤政子、塩月ミチ子、若林淸子、浜場京子、矢野敏子、加藤フジ子、德田ナミ、安藤とし子、本村つぐめに対する各診断書、医師靑山茂吉の甲斐タミに対する診断書、医師井原準平の丸目允子、太田春一、山下キクエ、満富那智子に対する各診断書、医師井原準平の丸目允子、太田春一、山下キクエ満富那智子に対する各診断書、旭化成延岡工場労働組合代表者執行委員長臼井良雄名義の告訴状中それぞれ判示事実に照合する部分の各供述録取並びに各記載によりこれらを認め得らるるので判示犯罪事実はその証明充分なるものと認める。

弁護人等は被告人等が本件において予め通謀したることもなく又多衆の威力を用い共同暴行をなすにつき認識を欠いておるばかりでなく暴行の点については何等証拠がないと主張するけれども、およそ刑法第二百八条にいわゆる暴行とは人の身体に対し不法に攻撃を加えることをいうのであつて直接手足や兇器を使用せなくとも外形上かような態様を備えておればその方法の如何を問わず暴行と指称するに毫も妨げないものであるからかかる場合行為者においてかかる行為をなすにつきその認識あらば暴行罪としての罪責を免れ得べきものではない、又共犯として共同加功の意思ありとするには必ずしも豫め通謀あることを要件とするのではなく行為者間に犯行の認識があつて互に他の一方の行為を利用し全員協力して犯罪を実行せしめた事実があるときは行為者相互間に意思の連絡あるものとして共同正犯の成立を否定すべきものではない、本件において被告人等が第二組合員百名位とともに互に協力して防衞薄き通車門で第一組合員等の「スクラム」を突破し工場内に入場せんがため第一組合員等の抵抗を排し肩や胸や身体で強力に押し捲り遂に一部の「スクラム」を解くに至らしめたことは前敍挙示の証拠により優に認めることができるので被告人等のかかる行為は唯第一組合員等を押したというが如き単純なものでなく集団の力を利用し強力に第一組合員の「スクラム」を突破したものといえるのであつて、その攻撃の態様、程度等から観察して社会通念上第一組合員等の身体に対し不法に攻撃を加えたものと断ずるも敢えて誤りなきものと解する又この場合被告人等がその行為をなすにつきその認識ありたることは多く説明を要せずして明白なるものと信ずる、従つて被告人等が右行為に対し暴行罪として刑責を負うべきは固より当然であつて寸毫も違法の要件を欠くものとはいえない。被告人等が手や足を用い第一組合員等に攻撃を加えたものでないから暴行罪に当らないというが如きは根拠なき謬論であつて到底採用することはできない。

而して被告人等の暴行が前段認定のような形態を採られている限り第一組合員の自由意思を制圧するに足る勢力であるといい得るので多衆の威力を用いたものと解するに充分である。しかも被告人等が集団の力を利用し全員協力して本件暴行に出でたものであることは既に認定したとおりであるから事前における謀議の有無如何にかかわらず被告人等において共犯としての罪責を免れ得べきものではない。

次に弁護人等は本件暴行と傷害との間には因果関係がないから傷害罪につき被告人等に責任はないと弁解するけれども刑法に定むる傷害罪は加害者かその原因となる行為をなすにつき認識あらば足るものであつて傷害の結果につき認識あることを必要とせないことは今更論ずるまでもないがその傷害の結果の発生に対しその原因となる暴行の事実が直接であると間接であるとを論ぜす又その原因のみで結果を発生せないで他の原因と競合して傷害の結果を発生したときでも同じく傷害の結果につき責任を免れ得べきものではない、尚この場合たとえ被害者に過失があつたとしても暴行と傷害との間に因果関係を中断するものとは解せられない。従つて特定の行為が原因となり特定の結果を発生し又は発生することあるべきことが吾人の智識経験によりこれを認識し得らるるときはその行為をなしたものはその結果の発生につき原因を与えたものとして責任を負わねばならない。

本件において被告人等が被害者である中村チエ子外二十二名に対し直接暴行を加え傷害の結果を発生せしめたことについては弁護人等の弁解するように的確な証拠は見当らないが本件暴行が前段認定のように集団的に行われたものであつて、しかもその暴行の形態たるや第二組合員等が判示工場内に入場せんがため第一組合員等の「スクラム」線に押し掛り第一組合員等も又極力この線を固めて第二組合員の入場を阻止せんとしてこれを押し返し互に押しつ、返されつしている中第二組合員等の力が勝つて第一組合員等の「スクラム」線を突破したものであつて、必竟本件傷害はかかる混乱時に発生したものであることは前示各証拠によりこれを認定するに充分であるからかかる場合被告人等が直接被害者等に対し暴行を加えたものでないとしてもその傷害が被告人等を含む田〓松治外百名位の第二組合員の集団的暴力により惹起せられた結果と観るのが社会通念上固より相当であつて又かかる結果の発生が右第二組合員等の集団的暴力なかりせば発生することなかりしものと解するのが吾人の智識経験により容易に認識し得らるるが故に本件傷害が尠くとも被告人等を含む右第二組合員等においてその原因を与えている限りたとえ被害者等に過失があつたとしても被告人等はその責任を回避し得べきものではない。

次に尚弁護人等は正当防衞か然らざれば緊急避難であるから責任を阻却する旨抗弁するけれども刑法第三十六条にいわゆる急迫といい、同法第三十七条にいわゆる現在の危難といい、いづれも法益の侵害や現在の危難が切迫していることを意味するのであつて又「已ムコトヲ得サルニ出デタル行為」というのは当該行為をすること以外には他に方法がなく、かかる行動に出でたことは当時の具体的情況の下において社会通念上肯定し得らるる場合を意味するものに外ならない。

然るに本件において第一組合員等が被告人等及びその所属の第二組合員等の業務権並びにこれら業務により生産する会社の業務を侵害したのは争議突入後徐々に行われておつたのであるが愈々本格的大企模に実行に移されたのは同年十月十日正午一齊「ストライキ」宣言後のことであつて、このときから本件発生当時までこれが防衞対策を講ぜんとすれば相当時間的余裕がなかつたわけではなく又当時の情勢から観て第一組合員等がかかる挙に出るやも計られざることは必至の数として容易に推察し得られたところであるから予め仮処分その他の方法で司法機関に対しこれら権利を有効適切に擁護し得られたはずである。尤も本件発生当時同工場では第一組合員等の右業務妨害行為により著しく生産を低下せしめていたことは否めない事実であるが弁護人等が主張するように被告人等百名位の第二組合員等が当日就業せないからといつて同工場の機能が全部停止するというが如き逼迫した危険に曝されていたものと解し得ないのである。何とならばかかる危険な状況が既に本件発生当時切迫しておつたものとすればその前日たる十日の午後三時及び午後十一時の勤務交替時にも第一組合員等により本件と同じような業務妨害行為が継続して行われていたのであるからその間既にその危険が発生したものと思われるのにかかる証拠は毫末も存在しないばかりでなく証人田川知昭同小深田耕一の供述により明らかなように当時同工場では第二組合員の数は少くとも千名位に上つており運転可能の八十台の紡糸機を運転するとしても一日七百名位の従業員あらば機械の運転を可能ならしむる状況にあつたこと及び第二組合員中あるものは工場の塀を乗り越えたりあるものは「ピケツテイング」の間隙に乗じ入場したりするものが相当数現われておつた等の事情を考合すれば適宜これらの人員で配置転換、連勤等応急措置により同工場の機能を全部停止せしめなくとも不完全ながら運行をなし得たものと解せらるるからである。

かく観察すると被告人等が本件犯行当時自己及び会社の叙上権利を保全防衞するにつき何も他に手段方法なきまで極めて緊迫した場合であつたものとは到底認めることはできない。殊に私人が法益に対する侵害等を防衞する場合に已むことを得ざるものとして当然許容せらるべき範囲は整備せる現代国家の機構組織の下において必然的に極めて狭少に限局されたものであると解さねばならぬ、それ故よし被告人等に正当な権利があつてもあくまで平和的に合法的にこれを行使せなければならぬ責任と義務を負うものであつて、たとえこれが行使の妨げとなる不法の侵害があつてもかかる限局された範囲内においてのみ実力行使を是認せらるべきものというべきで、いやしくも侵害者に対し暴行傷害を加えるようなことは立憲治下、文化国家の国民として厳に戒慎せなければならぬ。況んや本件のように争議が頂点に達し第一組合員等が自己の目的を貫徹せんことに汲々として敢て違法の手段をも意に介せずとする亢奮状態の下において被告人等第二組合員等が多衆の力を賴みその防衞線を突破して直接行動に出づることは勢の赴くところ必然的に暴行傷害の結果を誘発するは理の当然とするところであつて、かかる具体的情況の下においてなされた本件犯行が社会通念上当然として是認し許容せらるべきはずがないのであつて、かかる行為は正当防衞又は緊急避難として寛恕せらるべきものではない。

尚弁護人等は被告人等の本件行為は期待可能性を欠き犯意がないと主張するけれども本件発生当時被告人等として他に執るべき手段方法のあつたことは既に認定したとおりであるから、その当時の事情から観察して何人をして被告人等の地位に立たしむるも被告人等の執りたる本件行動以外に出づべきことを期待することは不可能であつたものと解することができないので弁護人等の右主張は到底これを容れるに由ない。

福田弁護人を除く爾余の弁護人等は被告人等の本件行為は事前に組合幹部が取締官憲である松永検事正の指示を受けこれを各組合員に通達したため行われたものであるから違法の認識を欠ぎ責任を阻却する旨争うけれども、かかる指示のあつたことにつき信用すべき何等証拠がないので違法の認識如何の價値判断につき検討を加えるまでもなく該主張は排斥を免れない。

尚弁護人等は被告人等の本件行為は憲法並びに労働諸法規上認められた正当業務行為であるから違法性を阻却する旨抗弁するけれども旧労働組合法第一条第二項は労働組合の団体交渉その他の行為について刑法第三十五条の適用あることを規定しているが、これは労働組合の団結権の保障及び団体交渉権の保護助成によつて労働者の地位の向上を図り経済の興隆に寄与することの目的達成のために、なした正当行為についてのみこれが適用を認めているのであつて憲法第二十八条の根本精神と同一趣旨のことを規定しているに過ぎない、然るに本件行為は単に憲法第二十七条の保障する勤労権を行使する手段としてなされたものであつた前叙目的達成のためになされた行為と観ることができないので前記法条の適用ないものといわねばならぬ、仮りに右規定が広く解釈せられ本件に適用あるものとするもこれと同一趣旨の下に制定された新労働組合法第一条第二項では明らかに暴力の行使は労働組合の正当な行為と解釈されてはならない旨規定しているのであつて本件行為が憲法並びに労働法規上正当業務行為として保護の対照となり得ないことは多く論を容れないものと解する。

最後に小西弁護人は本件行為は自救行為であるから責任を免除する旨弁疎するけれとも自救行為とは一定の権利を有するものがこれを保全するため官憲の手を待つに遑なく自ら直ちに必要の限度において適当な行動を取ることを意味するものであるが本件がかかる場合に当らないことは前叙正当防衞、緊急避難の説明において詳論したると略揆を一にするが故に茲にこれを引用しその判断を省略することにする。

以上の説明により弁護人等の右主張は、いずれも理由ないものとして採用することはできない。

法に照すに被告人等の判示行為は各暴力行為等処罰に関する法第一条第一項各刑法第二百四条に該当するがこれらは一所為数罪名に触るる場合であるので各同法第五十四条第一項前段第十条を適用しその重き傷害罪の刑に従い処罰すべきものである。

そこで量刑につき考えるに本件発生の動議は被告人等において労働争議中その当事者である組合が幹部の過激な思想に基いて争議を継続しているとの理由でこれを非とし該組合を脱退し新たに結成された第二組合に加入し自己の勤労権を擁護するとともに、その勤労する会社が輸出に重要な製品を生産しているので、その生産を向上することが日本再建に極めて重要であることを自覚しこれらの目的を達成するため熱意の迸るところ冷静に事を処するの道を辨えず一途に第一組合員の不法な侵害を排除し自己又は会社の権利を防衞せんとしてなされた違法行為に起因するものであつてその動機に恕すべき点のあつたこと、その暴行の態様も通常用いらるるように毆り込み兇器施用のような強暴なものでなく単に多数の力を藉り体当りで押し込んで行つたというに止まり被告人等のみの力ではかかる重大な傷害の結果を発生せしめ得べくもなかつたのであるが偶々多数の力が一団となつて強力に作用したため、犯行場所が足場惡き通車門であつたこと、尚当時俄かに鉄扉が開かれたことなどの諸条件が加わり本件犯罪が惹起されたこと換言すれば被告人等の本件行為は全体の犯行の態様から観れば極めて微々たるもので傷害の結果に比較して刑事責任として高く評価さるべきものでないこと、被告人等も本件行動中肘関節脱臼、肋骨部打撲症、前搏刺創等の傷害を受けていること、本件犯罪は被告人を含む田〓松治外百名位の集団的犯行であるのに何等責任者でない被告人等のみに他の共犯者の責任をも代表し全責任を負担せしめ重刑を以て臨むは余りに苛酷であること、本件犯行が被害者である第一組合員等の不法な侵害に端を発しているのであつて、その受けた法益の侵害に対して被害者においても一部の責任を負わねばならぬこと、本件傷害の被害者が大部分可弱き年少の女子であつた点から観てこれら被害者が当時の情勢上かかる不法な争議手段を用いるとき通常健全な常識から判断して本件のような重大な結果を発生する虞あることを予見し得られたのにかかわらず敢て屆強な男性の間に伍し第一線に身を挺し実力行使の挙に出でたため蒙つた傷害であるから女性として自己のこの行動に対し充分反省の余地のあること等諸般の事情を参酌して被告人等に対し懲役刑よりも寧ろ罰金刑を以て処断するを相当と認めらるるので傷害罪の刑中罰金刑を選択し被告人等に対し各罰金五百円に処し右罰金を完納することができないときは刑法第十八条に則り金五円を一日に換算した間当該被告人を各労役場に留置すべく訴訟費用につき旧刑事訴訟法第二百三十七條第一項第二百三十八条を各適用し被告人等をして連帯負担せしむるものとする。

仍つて主文のとおり判決した。

(裁判官 江藤〓夫)

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